日本社会では、どのようなプラットフォームが作れるでしょうか
朴元淳さんの日本紀行記の衝撃
もう,10年近く前のことですが、横浜の参加型システム研究所で少しお手伝いをしていたときに、同研究所が翻訳した朴元淳さんの「韓国市民運動かのまなざし〜日本社会の希望を求めて」(2003年9月1日発行。風土社、原著名:パク・ウオンスン弁護士の日本市民社会紀行〜変わり者を訪ねて)との出会いがあり、これに衝撃を覚えた記憶があります。
この著書は、朴元淳さん(現ソウル市長)が2000年9月から11月にかけて日本の国際交流基金、国際文化会館の招聘により3ヶ月間日本の各地を視察されたときの記録の翻訳ですが、量が多かったため,出版の形式の異なる2分冊となったようです。
訪ねた地域、団体等のお話が書かれておりますが、衝撃を受けたのは、序章の中の記述でした。
「日本の市民運動は分散孤立型だ。ネットワークの流れがないわけではないが、全国的に連帯して一致団結するとか、政府や企業のモニター活動をする団体は少ない。とくに政治的な性格をもった活動は、嫌われる傾向が強かった。政治を変えずして変えられるものがあるだろうか。」
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総論に強く各論に弱いのが韓国の市民運動だとすれば、総論に弱く各論に強いのが日本の市民運動だ。韓国の市民運動が戦略的な地点を爆撃し、社会の変化を導く空軍だとすれば、日本は、下からひとつひとつ変えていく陸軍である。
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日本の知識人がみずからの社会に大きな絶望を感じているのは事実だが、さりとて日本から学ぶものがないといってはならない。制度と実践、いずれをとっても日本が韓国より一段上だ。見習うべき部分も少なくない。」
日本では、こうした視点での著書はあまり見られないと思います。こうした比較論による分析がなされたのは、韓国の市民運動に永年取り組み、その延長上で日本の市民運動を見て回られた中での率直な認識であったと思います。日本に関する著述は、市民運動のみならず,さまざまな分野でも同じようなことが言えるというのが私が読んだときの実感で、その後韓国との交流の中でそのことをさらに強く感じることもありました。
日本でのさまざまな活動は、積み上げ型が当たり前とされ、必然的に横へのつながりは作っていくのがなかなか難しい状況にあります。
積み上げ型で,かつ横の連携を進めるプラットフォームを作る
こうした中で,今回の「2014グローバル社会的経済協議体創立総会及び記念フォーラム」の開催は、非常に興味深い動きであると思っております。今年の5月にソウル市で施行された「社会的経済基本条例」は、日本の自治体では未だかつてない取組みであるように考えております。
この条例も踏まえた、今回の取組みで、ソウル(韓国)は、戦略的な取り組みに加えて、若干弱いとされる積み上げ型の取り組みについても強化していこうとする意味合いを持っているように思います。自治体とそこで活動する社会的経済にかかる団体等が連携する形で参加していただきたいという意向の中に、積み上げ型の取り組みを組み込んでいこうという意図が垣間みられるように感じています。未来社会を見据えて、自治体との連携をすすめることで、社会的経済に関わる現場の足腰を強くする必要があるとの認識に立っているように思います。
翻って日本では、さまざまな社会的経済に関わる組織の一部は自治体との関わりがありますが、一般的には横の連携があまりとられておらず、国の制度設計のもとでそれぞれの活動を行っているのが大方の実態です。
これにはさまざまな理由が考えられますが、ソウルから提起された今回の動きを契機として、政策課題認識に立ってどれだけ横のつながりがつくれるかを試みる、よい機会と捉えることが出来るのではないでしょうか。
ソウル側が、これからの社会で求められる方向を戦略的に、かつ出来るだけきめ細やかなシステムとして構築していこうと考えているとすれば、日本では、社会的経済に関わるさまざまな活動・取組みの横のつながりを作り出し、これをどうしたら全体的なものにまとめていくことが出来るかを検討する、非常にチャレンジャブルな機会ではないかと思っています。そして、これをどのような形にデザインしていけるかが、今回の課題であると私は考えています。先日会でうかがった松岡さんお話で言えば、まさにプラットフォームをどのように構想するかを検討するよい機会だと思います。
井上良一